法令用語(1)ー「経過する日」
今回は法律用語に関するコラムです。
法律の文章ってそもそも難しいうえに、一般的に使っている言葉でも特別な意味を持っている場合があります。たとえば、わたしが昔びっくりしたのは「ないし(乃至)」。
「AないしD」と普通の会話で聞いたら「AあるいはD」ですよね。しかし法律の世界では「A乃至D」というのは「AからDまで」つまり「AもBもCもDも」という意味なのです!
さて、今回は「経過する日」と「経過した日」です。各種書類の提出期限等には、この文言がよく出てきます。
たとえば、新設法人の消費税課税に関する「調整対象固定資産」の規定(消費税法第12条の2第2項)には「・・・・当該調整対象固定資産の仕入れ等の日の属する課税期間から当該課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間・・・」という表現があります。規定内容の詳細説明は別の機会に譲りますが、この例から「経過する日」を詳しく見ていきましょう。
たとえば3月末決算の法人で、2022年の5月に調整対象固定資産の仕入れがあったとします。これを分解すると、
・固定資産の購入日=2022年5月
・当該課税期間の初日=期初日、つまり2022/4/1
・初日以後3年を経過する日=2022/4/1から丸3年、つまり2025/3/31
となります。
厳密には、「2022/4/1から3年経過するぞ、もうすぐするぞ・・・」ということで2025/3/31の深夜がギリギリだということです。
これに対して「経過した日」は、「2022/4/1からいまちょうど3年経過したぞ!」ということで、2025/4/1の早朝が当たると考えられます。
まとめると、たとえばこのコラムを書いている今日(2022年4月25日)から
3ヶ月を経過「する」日だと7月24日ですが、
3ヶ月を経過「した」日だと7月25日
ということになります。
ところで、ここで気を付けないといけないことがあります。税務の手続関係を取りまとめた法律である「国税通則法」第10条1項では、次のような決まりがあります。
『期間の初日は、算入しない』
このあと『ただし・・・』と続いて細かくは様々な規定がありますが、原則として期間計算においては初日は不算入だということです。
税制適格ストックオプションの行使期限を例にとると、「決議の日後・・・10年を経過する日まで」と規定されていますが、たとえば株主総会決議が2022年6月15日に行われたとしたら、10年を経過する日は2032年6月14日ではなく、株主総会の翌日(2022年6月16日)から起算した2032年6月15日ということになります。
さらに国税通則法には、申告や届出等の期限が日曜日や祝日などに当たった場合には、翌日を期限とみなすという規定もあります(第10条2項)。しかしこれに当てはまらず前倒しの場合も存在しますので、各種届出等に関しては必ず正確な期日を把握するようにしてください。
また、30日までしかない月や2月28日も要注意です。12月31日から「2月を経過する日」と「60日を経過する日」は異なりますし、2月28日から「2ヶ月後」って4月28日?4月30日?と迷った場合には、必ず厳密な期限をご確認ください。
税に関する届出等は締切厳守が鉄則です。こういった微妙な差でペナルティを課せられたりすることのないように、ギリギリを狙わず、常に余裕をもった対応を心掛けたいですね。
<参考>国税庁ウェブサイト「国税通則法基礎編」8ページ
https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kohon/tuusoku/pdf/all.pdf